プロジェクトレポート

PROJECT REPORT

雲仙地区地域防災対策総合治山工事(島原市南上木場町)

雲仙地区地域防災対策総合治山工事は、流域を土砂災害から守り、安全な生活を確保することを目的として、谷止工群を建設するものである。当工事施工箇所は、土石流や溶岩ドーム崩壊などの被害を受ける可能性があるため、谷止工本体(RCC工法)および土工事等の一連の工事を、無人化施工により行う。

雲仙地区地域防災対策総合治山工事は、流域を土砂災害から守り、安全な生活を確保することを目的として、谷止工群を建設するものである。当工事施工箇所は、土石流や溶岩ドーム崩壊などの被害を受ける可能性があるため、谷止工本体(RCC工法)およびど工事等の一連の工事を、無人化施工により行う。

日本でここだけ。無人重機がチームで作業。
RCC工法による無人化施工を可能にした、超遠隔操作技術

平成2年(1990年)11月、長崎県雲仙普賢岳が198年ぶりに噴火しました。翌平成3年(1991年)6月から9月にかけて、大規模な火砕流や土石流が発生し、多くの被害が出ました。激しい火砕流が迫ってくる中、逃げ惑う人々の姿が映し出されるニュースを、記憶している方も多いと思います。噴火が終息するまで、それから5年。現在も人が入れない警戒区域があり、工事はまさにその中で行なわれています。大きな危険が伴う工事のため、平成5年(1993年)7月に建設省(現・国土交通省)が無人化施工技術を公募しました。平成6年(1994年)より、試験施工を経て、本格的に無人化施工が実施されています。取材した令和元年11月現在、残すのは水無川上流の7号谷止工のみ。令和2年(2020年)3月の完成を目指しています。長きにわたる無人化施工について、株式会社フジタの三鬼尚臣所長と、九州支店島原作業所の石橋和久所長にお話を伺いました。

  • 株式会社フジタ 九州支店 水無川谷止工作業所長 三鬼尚臣氏

  • 丸磯建設株式会社 九州支店 土木部所長 石橋和久

  • 丸磯建設株式会社 九州支店 土木部長 黒岩大助

RCC工法による無人化施工。警戒区域内にある堆積土砂で型枠を作成

はじめに株式会社フジタの三鬼所長に、工事概要を伺いました。 「普通、火山の噴火というとハワイ島のキラウエア火山のように、溶岩が火口から吹き出て流れていく様子を思い浮かべると思いますが、普賢岳の溶岩は粘度がとても高く、噴火しても火口から出た瞬間にほぼ固まる感じです。筍がニョキニョキと出るイメージですね。いわゆる溶岩ドームとなっている山頂はまだ不安定な状態で、冬のような乾燥した時期にサラサラとした粒子が風に乗り、少しずつ溝に溜まっていきます。それが降雨期になると水分を含み、一気に流れてしまうというのが土石流発生のメカニズム。土石流は溢れかえると周りの流域に影響が出てしまうため、流れの道筋を整えてあげるというのが、今行なっている工事です。」 水無川流域の工事としては、下流側が国土交通省(当時は建設省)管轄の砂防事業、山側は長崎県管轄の治山事業と管轄は異なりますが、基本的に床固工も谷止工も同じで、作る構造物も同じものだといいます。

  • 株式会社フジタ 九州支店 水無川谷止工作業所長 三鬼尚臣氏による工事概要の説明

  • 水無川流域の工事図。治山事業の「施工中」と記した位置が今回の取材現場

「流れてきた土砂は、一旦ダムに貯める必要がありますが、土砂は流れてくる途中で谷を削り、その分の土が加算され量が膨大になる。ダムが受け止められる量には限りがありますので、それを防ぐために段々畑のように斜面を段切りします。こうすることで勾配が緩やかになり、スピードが落ちて谷を削る量が減っていき、ダムに着く頃には土砂の量が少なくなっています。」 その構造物をコンクリートで作るのですが、人が入れない警戒区域内のため通常のように人が木枠やメタル製の枠を作れません。そこで現場にある土を使って型枠を作り、超硬練コンクリートを使った「RCC工法」が採用されました。 「RCC工法は、コンクリートをローラーで締め固める工法です。掘削してでた堆積土砂を型枠として、その中に生コンプラントで作った超硬練コンクリートをブルドーザーで敷き均し、振動ローラーで締め固め、50cm程度の薄層を積み上げていくわけですが、コンクリートの運搬・敷き均し・転圧・養生を無人化施工で行なっています。」

  • 無人化施工の現場。無線機を用いて重機を遠隔操作して、型枠を作り上げていく

  • ICT施工により、丁張りレスで土砂型枠を施工する

  • コンクリートをブルドーザーで敷き均す作業

  • コンクリート敷き均し完了後、ローラーにて転圧締め固め作業

  • RCCコンクリートを運ぶトラックはここから無人となる

  • 遠隔操作により、現場へ動き出すダンプ

  • 雲仙普賢岳の山頂はまだ溶岩の固まりが不安定な状態で残っている

ICTを駆使し、斜面でも無人化施工に挑戦

広域現場における無人化施工を可能にした超遠隔操作については、石橋所長に話を伺いました。 石橋所長は、平成14年(2002年)に初めて入ってから計5回、こちらの現場を担当して、平成30年(2018年)からは所長として携わっています。今回は無人化に加え、傾斜のある場所での作業もICT施工で担当。これも初の試みです。 「一連の作業としては、生コンプラントから10tダンプで運んだコンクリートを、46t積みのダンプに移し替え、それを無人区域の境界まで有人で運びます。その後、カメラを見ながら無人操作を開始。無人区域から約1.5~2km離れた操作室には、オペレーターが操作するモニターと、カメラのモニターがずらりと並び、機械の操作は全てそこで作業します。1週間のうち、2日がコンクリートを打ち、3日が土砂型枠を作るといった流れです。令和2年(2020年)3月完成を目指し、平成28年(2016年)から上流の右岸側の工事を担当して、これで最後になります。掘削は全て完了し、今はコンクリートをローラーで締め固める作業になっています。1回250立米のものを全部で16回打ち、現在(11/15)3回目が終わったところ。通常は水平に打つのですが、今の施工箇所は4%の傾斜があります。傾斜があっても正確にできるのか、10月頭に試験施工して、水平時と同じ強度だと確認できましたので、11月8日から本格的にスタートしています。」

  • カメラモニターがずらっと並ぶコントロールルーム

  • 重機のコントロールチームとカメラをコントロールするチームが連携して操作を行う

  • 多角度から重機の様子が見られるよう、1重機に対し数台のカメラが設置されている

  • 工事の進捗や問題点などの確認

格段に進歩した無人化施工。ここで得た知識と技術を次の現場へ繋ぐ

「最初の頃の操作室は車内に設置され、有人・無人区域のギリギリのところに車をつけて作業しました。現在は境界線のところまで通信ケーブルを引き、そこから無人区域の中継車まで電波を飛ばします。中継車から各機械までさらに電波を飛ばし、指示を出しています。中継車からは約800m先まで電波が飛ばせますので、かなり広い範囲を作業することが可能です。」
災害時の作業では、今でもハンディラジコンを使用して機械を操作するとのことですが、目視の作業だと動かせるのはせいぜい300~400mまで。これはあくまで緊急措置用だといいます。広域の現場を作業するのは、今では超遠隔操作による無人化施工。機械を動かすスピードも有人の場合と遜色のない速度で行えます。ただ、全体で見た場合、無人化施工の作業効率としては有人の時の約70%。

  • 水無川7号谷止工の無人施工の様子

  • 遠隔操作で動く複数の重機

  • 有人区域で、10tダンプから大型ダンプへRCCコンクリートを積み替える作業が行われる

  • 大型ダンプ CAT 773E

また、土石流を堰き止めるコンクリート構造物は1つではなく、何ヶ所か群を成してはじめて効果を出すものなので、25年もの月日がかかってしまったとのこと。それもあと数ヶ月で完了です。ここで得た知識と経験は、日本各地の災害復旧現場で生かされると、石橋所長は言います。 「私がはじめてこの現場に来たときから、数段、技術が進歩しています。通信設備も以前はトラブルが度々ありましたが、現在はほとんどない。カメラ映像だけで行う作業ですが、オペレーターの技能もICTの精度も上がっています。自分が先輩たちから教えてもらったことを、次世代の人たちに繋げていくのも仕事のひとつだと思っています。」

雲仙で働く、丸磯社員!

以前、山梨県甲斐市のメガソーラー現場で取材した親里魁斗さん。現在こちらの現場に異動となっていました。

「雲仙に来てまだ2週間目ですが、ここでは初めから操作室でカメラの操作を教わっています。今までは測量時に重機が邪魔な時だけ動かしていましたが、今はある意味オペレーターと同じことを、少しですがさせてもらえていると思っています。モニターを見ながら動かすのはコツを掴めばスムーズにできるような気がします。カメラは一つの重機に対して2.3台ありますが、オペレーターとの連携が必要なので、常に声をかけあっています。最終的に丸磯建設で、カメラ・重機・測量の超遠隔操作が全部できるよう、現在フジタさんから技術指導を受けています。1日も早く戦力になるよう努めていきたいと思います。」

小林亮介さん

ベテランオペレーターの内田徳幸さんと藤哲男さんにもお話を伺いました。

「最初は見える角度が違うため戸惑いましたが、じきに慣れてきました。始めた頃は基準となるレベルがなかったんです。被災施設である旧大野木場小学校の屋上に基準カメラを設置してからはずいぶん楽になりました。カメラ担当と常に声をかけあって連携を取っているので、今では遠隔操作で難しいと思うところはありません。モニターばかり見ているので、目は疲れますけどね。目視による仕上がりはできませんが、ICTで数値的には安心しています。カメラを通してしか現場が確認できないのだけが、ちょっと残念です。」

小林亮介さん

左:内田徳幸 右:藤 哲男

雲仙で働く丸磯社員

工事概要

  • 工事名:雲仙地区地域防災対策総合治山工事
  • 工事場所:島原市南上木場町
  • 工 期:自2019年9月17日〜至2020年3月10日
  • 発注者:長崎県島原振興局
  • 元請会社:フジタ・三青特定建設共同企業体
  • 谷止本体工:3,721m3
  • 土工:13,822m3
  • 排土工:16,872m3
  • 使用重機:
  • バックホー
    390D(4.0m3)(CAT)ラジコン
    320E(0.8m3)(CAT)/ラジコン+3DMG
    320EL(0.9m3)(CAT)/ラジコン+3DMG
  • ブルドーザー
    D6N(CAT)16t級/ラジコン+3DMG
  • 不整地運搬車
    MST2200(諸岡)10t級 /ラジコン
  • ダンプトラック
    775D(CAT)55t級/ラジコン、773E(CAT)46t級/ラジコン
  • 振動ローラー
    SD451(酒井)11t級 /ラジコン