プロジェクトレポート

PROJECT REPORT

内ケ谷ダム工事(岐阜県郡上市大和町内ケ谷地内)

内ケ谷ダム工事は、岐阜県郡上市を流れる長良川の支流・亀尾島川に洪水対策および流水の維持を目的として建設するもので、長良川流域における河川整備計画の一環をなしている。丸磯建設は、その地盤造成工事などを担当している。

内ケ谷ダム工事は、岐阜県郡上市を流れる長良川の支流・亀尾島川に洪水対策および流水の維持を目的として建設するもので、長良川流域における河川整備計画の一環をなしている。丸磯建設は、その地盤造成工事などを担当している。

重力式コンクリートダムの莫大な重量を支える岩盤工事

亀尾島川は、岐阜県・福井県境の越美山地を源流とし、郡上市八幡町を経て長良川に合流する一級河川です。通常時は山間を流れる穏やかな小川という風情ですが、実はこの地域は多い年で年間降水量が3,000mmを超えることもある国内でも有数の多雨地帯で、梅雨や台風の豪雨によってたびたび大きな被害を受けてきました。 このため内ケ谷ダムは長良川流域の治水計画の一環として計画され、ダム下流域の洪水被害を軽減するために治水ダムとして建設するものです。丸磯建設は、完成時には高さ84.2m、総貯水量11,500,000m³となる重力式コンクリートダムを支える岩盤の造成工事を行っています。関西支店土木部の鎌田信昭所長にお話を伺いました。

  • 関西支店 土木部 総括所長 鎌田信昭

  • 関西支店 土木部 米谷文治

  • 関西支店 土木部 上西成弥

現場を流れている亀尾島川は普段は渓流釣りができそうな小さな美しい川でした。訪れたときは快晴でしたが、いったん大雨が降るとこの川は激流に変わります。平成30年7月の豪雨では現場の土砂や仮設の施設、さらには下流側の骨材プラントの造成地までもが流されてしまったということがありました。また、冬季は雪のため立ち入りを禁止されていて12月~3月くらいまで工事ができません。こうした厳しい環境ならではのお話を伺いました。

「丸磯建設は、この内ケ谷ダムの工事では堤体基礎の掘削を担当しています。簡単に言えば、山を削って基礎を作る工事です。山の表土を削って、ダム本体を支える岩盤を露出させ、図面に合わせて岩体を整えていくわけです。現在(R元.7時点)、だいたい6割くらいは進んだところでしょうか。予定では掘削する土砂の量を55万m³と見積もっていましたが、ダムを支える岩盤対策のために掘削範囲を広げることになり、最終的に60万m³程度の搬出量になると見込まれています」

伺った当日の現場は、ダムを建設する場所が大まかにわかるくらい掘削作業が進んでいました。しかし、まだそこから20mくらい掘り下げるということで、現場の規模の大きさがわかります。

  • H28年11月から本体掘削を開始(左岸側)

  • H28年11月から本体掘削を開始(右岸側)

  • 取材当日 R元年7月 岩体を整える作業が進んでいる(右岸側)

山奥ならではの事情。インフラの整備からはじまった現場

ほかの現場と比べて、こうしたダム工事ならではの苦労する点など教えていただけますか。

「この現場はご覧のように山奥なので、工事のためのインフラが何もないところから始めなくてはならなかったんです。例えば、山を削るためには、まず重機を山の上に運んでやらなければならない。そこから下へ向かって削っていくわけですが、山頂までパイロット道路(工事用の専用道路)をまずひいて、それでようやく工事をはじめることが出来ました。工事が進むと今度はせっかくひいたパイロット道路ごと山を削っていくことになるので、人間を現場まで運ぶためのモノレールが必要となりました。」

  • 地質調査をするために掘られているトンネル「調査補坑」

  • 堅固な岩盤は火薬による発破を行い、ブルドーザーで積み込み場所へ

そういえば、このあたりは携帯電話の電波も届かないようですね。ICT建機の使用には差し支えないんでしょうか。

「実は、そのため要所要所にWi-Fi用のアクセスポイントを設置しなくてはなりませんでした。場所によってはNTTの基地局も設置してあります。それでも現場全域をカバーできないので、普段は無線機も併用しています。」

インタビュー中でも、山を越えたあちこちの現場同士で無線連絡が飛び交っていたのが聞こえました。通信インフラの敷設の大事さがよくわかります。

ICT建機で変わったこと

「この現場では、電波の都合などもあってあまり多くのICT建機を入れていませんが、それでもずいぶん助かっています。以前なら、工事がある程度進むと人間が山に登って測量して、図面通りに進んでいるか確認したり丁張り(工事の目安として設置するもの)をしたり、ということを何度も繰り返しました。当然、重たい機材を背負って登るわけですからたいへんな作業でした。
ICT建機が導入されてからは、航空写真と図面を重ねたデータを建機内のモニターに表示して確認すればよいので、測量作業がなくなって楽になりましたし、確認のために作業が止まることもなくなりました。しかも、図面との誤差をセンチ単位の範囲に収めることもできています。ちなみにこの現場では誤差範囲を5cmに設定しています。
ちなみにこの現場のICT建機には、日立のZH200という ハイブリッドショベルが使われていて環境対策にも配慮しています。この建機はモーターアシストで燃やす燃料を減らすだけではなく、排気ガスの中の微粒子も再燃焼して排出を抑えるすぐれものです」

  • HITACHI ZH200 ハイブリッドショベル

  • 電子情報を活用して高効率・高精度の施工を行う

ほかにはどんな工夫をなさっていますか?

「また、これはICT建機ではありませんが、国内で2番目に大きい日本キャタピラー社のD10というブルドーザーを使って作業の効率化を図っています。ただ、実はこの現場のボトルネックは岩体の掘削ではなくて、土砂の搬出なんです。
工事用道路をこれ以上は広げられないので、ところどころに待避所を設置して、ダンプカーをすれ違いさせています。そんな状態ですからダンプカーの運用も台数に上限があって、単純に車を増やせばはかどるというわけではないんです。」
「そこで考えたのが、土砂搬出の徹底した効率化です。待避所と待避所の間の距離、ダンプカーの速度などを厳密に設定してダイヤグラムを作りました。電車の運行計画に使うグラフみたいなものです。これを使うことで、ダンプカーが待避所で待つ時間を減らし、最大の効率で運用できるようにしました。
さらに丸磯の持っている12トンダンプも投入しています。ダンプカーというと通常は10トンですが、特殊車両の申請をした12トン運べる車両を使うことで、1台あたりの搬出量を増やしています。」
交通から通信までインフラの設置から始めなくてはならない山奥という困難な現場にあっても、工期を厳守するべくさまざまな工夫をこらしていました。

  • 日本キャタピラー社のD10ブルトーザー

  • 今回お話を伺った関西支店の4名
    左から:上西氏、所長の鎌田氏、米谷氏、岡崎氏

工事概要

  • 工事名:公共内ケ谷ダム建設事業 内ケ谷ダム本体工事
  • 工 期:平成28年3月~令和5年6月
  • 発注者:岐阜県
  • 元請会社:前田・大日本・市川・TSUCHIYA特定建設工事共同企業体
  • 型式:重力式コンクリートダム
  • 堤高:84.2m
  • 堤頂長:270.0m
  • 堤体積:約330,000m3
  • 総貯水量:11,500千m3
  • 有効貯水容量:9,100千m3
  • 集水面積:39.9km2
  • 湛水面積:0.46km2
  • 使用重機

    バックホー
    ZH200(日立)0.8m3 2台、HB365(小松)1.4m3、336ELH(CAT)1.5m3

    ブルドーザー
    D8T(CAT)44t級、D10T2(CAT) 77t級、D65EX(小松)21t級×2台

    ダンプトラック
    12t×6台、10t×30台