丸磯建設 ダム寄稿34年間のダム人生

平成30年度「ダム建設功績者表彰」清水 奏(しみず かなで)

はじめに

思いもよらず今回、平成30年度「ダム建設功績者表彰」の栄誉を賜り、誠にありがとうございました。これもひとえに今までご指導して頂いた、元請企業や社内外の諸先輩方々 同僚・共に施工に携わった協力業者の皆様方のおかげと思い深く感謝申し上げます。
昭和53年に丸磯建設入社以来、海外の現場7年間以外ほとんど国内のダム建設現場に従事し、34年の間に約10ヶ所のダムに携わらせて頂きました。
それ等ダムの思い出を投稿させていただきます。

従事したダム

1) 奥野ダム(静岡県)

奥野ダムは伊東温泉の直上流を流れる伊東松川をせき止めて下流側の伊東市の水源確保と松川の氾濫防止対策を目的として築造されました。1958年(昭和33年)の狩野川台風に於いては下流の伊東市に大打撃を与えた洪水を発生させ、甚大な被害をもたらしましたが、河川沿いに観光地をかかえ河川改修がなかなか進まず、大型堤防などは費用も嵩み事実上不可能な状況でした。また伊東市は伊東線や伊豆急行・東海道線などにより温泉施設の拡大や人口の増加も進み、水需要の面でも現状の松川だけの自然流用では間に合わない状況でした。そこで河川管理者である静岡県が松川に多目的ダムを建設し、治水安全と水の安定供給を図るため松川総合開発事業としてダム築造に至ったものでした。

写真-1奥野ダム全景

ダム諸元は、提高63.0m 堤頂長323.0m  堤体積1,804千m3で形式は中央土質遮水壁式ロックフィルダムです。 ここが私のダム生活のスタートになり、新入社員でようやく測量ができるようになったばかりの私は、大きな重機が動き回る大現場に赴任し、毎日戸惑いの連続でした。しかし三保ダムの経験者である先輩が上司でしたので、色々と教えていただき、手探りながらも少しずつダム屋として歩みだすことが出来ました。
赴任中には台風で仮締切が決壊し、まだ施工中の仮排水路に水が流れ込む災害や、ダム左岸上部の山火事・伊豆大島の火山爆発と言った大きな出来事などいろいろありましたが、何とか元請職員さんや諸先輩方々の教えを受け、無事盛立完了までこぎつけたことが、この後のダム建設に従事する基礎になったと思っております。

又、この現場では工事職員3名が地元の方と結婚するなど大変地元の方との交流が深まったのも楽しい思い出です。私は既に結婚しており、今では考えられない事ですが休日が月に1~2回しかなく、なかなか帰省できない状態が7年間続きましたので、妻には大変申し訳なく思っており、感謝している次第です。

2) 山瀬ダム(秋田県)

山瀬ダムは大館市北部の米代川右支流岩瀬川にある秋田県営の多目的ロックフィルダムです。 ダム諸元は、提高62.0m 提頂長380.0m 堤体積1,625千m3の中央土質遮水壁式ロックフィルダムです。 付帯設備の山瀬発電所は認可最大出力:2.1千kw 使用水量:5.5m3/s 落差:48.85mです。 米代川の主要支流の一つである岩瀬川の洪水調整・既得用水の補給及び安定した河川流量の維持、下流域の田代町・能代市への上水道の供給、東北電力能代火力発電所への工業用水の供給を目的として造られた秋田県初のロックフィルダムです。
付帯設備の山瀬発電所は認可最大出力:2.1千kw 使用水量:5.5m3/s 落差:48.85mです。
米代川の主要支流の一つである岩瀬川の洪水調整・既得用水の補給及び安定した河川流量の維持、下流域の田代町・能代市への上水道の供給、東北電力能代火力発電所への工業用水の供給を目的として造られた秋田県初のロックフィルダムです。

写真-3山瀬ダム全景

このダムに赴任するに当たっては、前のダムでのコアゾーンの施工経験を買われ、元請企業に推薦を受け現場に乗り込みました。一度経験したロックフィルでしたので気持ちの上でも多少余裕を持って仕事に挑めました。
このダムは、白神山地の麓に近いせいか、現場付近は山菜の宝庫で村の方とも仲良くなり、いろいろと教えていただきました。また場内にツキノワグマが出没し、大騒ぎになったこともありました。
積雪の深い秋田の山間部なので冬場は当社担当の仕事が休止になります。ここに在籍したのは、盛立開始の一年間のみでした。

3)宮ヶ瀬ダム(神奈川県)

宮ヶ瀬ダムは都心から50キロメートルの位置で清川村・相模原市・愛川町の3市町村にまたがる重力式コンクリートの多目的ダムです。 相模川水系の支流中津川をせき止め、下流域の治水と横浜・川崎・横須賀など県東部15市9町の水道用水の確保、県内の電力供給を目的とした関東屈指の大ダムです。

写真-4宮ケ瀬ダム全景

ダム諸元は、提高156.0m 堤頂長375.0m 堤体積2,060千m3の重力式コンクリートダムです。付帯構造物である愛川第一発電所は認可出力:24千kwです。

初めてのコンクリートダムで日本を代表する様な大ダムでしたのでしたので、赴任するに当たり少し身構える様な気持ちになったのを覚えていますが、本体部の掘削と原石山の骨材採取との二本立てで、得意の大型重機土工なので自信をもって仕事に挑みました。 原石採取に関しては、従来の掘削採取した原石をグロリーホールといわれる立坑に投入し、下部まで落とし込み、骨材プラントまで重ダンプで運搬するという環境に配慮した工法で、運搬路がダム本体の捨土運搬路と重複するので、河川部をコンクリート舗装をして使用することで、効率の良い施工を目指しました。コンクリートも大型リフト(インクライン)に乗せダム打設場所に運搬し、重機で敷き均すRCD工法を採用し、できるだけ現環境を壊さないよう工事を施工していきました。昼夜で施工を行うので丹沢山系の住人(主に猪ですが)が興味深々でよく見に来ていました。 土捨て場となったところでは、第二次世界大戦で本土爆撃の遺物と思われる焼夷弾が山肌から出てきましたが、不発弾と分かり自衛隊に処理してもらい、事なきを得ました。

4)味噌川ダム(長野県)

味噌川ダムは木曽川の最上流にあたる長野県木祖郡木祖村に位置するロックフィルダムです。木曽川は下流部に於いて氾濫防止の対策(大規模築堤)等が難しく治水面と中京圏(愛知・岐阜・名古屋)都市用水の確保と、水力発電による電力供給を目的として築造されたダムです。

写真-7味噌川ダム全景

ダム諸元は、提高:140m 提頂長447.0m 堤体積8,900千m3の中央土質遮水壁型ロックフィルダムです。 こちらのダムでは当初の原石山が採掘できなくなり、新たに別の原石山を施工する事となったため大型重機施工に慣れた私に声がかかり着任することになった次第です。 着任し始めて長野県の冬を過ごすことになりましたが、思った以上に気候の厳しい中での工事となりました。
冬場になると外気は氷点下20度にもなり、素手で鉄製のものに触ると皮膚が貼りつき怪我をするので、絶対防寒手袋をして作業に入るよう注意が伝達されました。秋田県の山瀬ダムより極寒の現場でした。作業は原石を採取した材料を区分けし、盛立場に搬入するのが主な作業となりました。

ここも現場内で山菜が採れ、地元の方からも松茸やキノコなど頂いて焼肉大会で盛り上がったのをよく覚えています。

5)葛野川ダム(山梨県)

葛野川ダムは山梨県大月市、相模川水系葛野川の支流土室川に建設された電力用ダムで、東京電力の大規模揚水式の下池を形成するダムです。上部ダムと下部ダムが完成すれば国内でも最大級の2,820千kwの発電能力を持つ重力式コンクリートダムです。 ダム諸元は、提高105.2m 提頂長263.5m 堤体積622千m3です。 上下のダムをフルに稼働させると東京電力内の川崎発電所を上回る出力になるそうです。

写真-9葛野川ダム 右岸側より

当社はここでも得意とする大型重機土工でお手伝いをさせていただきました。ここは地形が特に急峻で、ダム天端の掘削では気を緩められない日が続いたのを憶えています。 又、この時代ころから私たちの居住環境も随分と良くなり、快適に休めて翌日につながっていったようなことを憶えてます。宿舎も3階建てで個室化することで、個人の生活を重視したので、昔の飯場的なイメージはなくなってきました。毎月安全大会等の後には元請や地域住民の方々とも親交を深めるために、作業員・オペレーターも交えて懇親会を開き、地域とのつながりを大事にしたことを思い出します。

6)上野ダム(群馬県)

上野ダムは、群馬県多野郡上野村楢原の神流川上流部に建設された電力ダムです。
ダム諸元は、提高120.0m 提頂長350.0m 堤体積720千m3の重力式コンクリートダムです。

写真-10上野ダム全景(ダム便覧より)

こちらも葛野川ダム同様の揚水式発電所の下部ダムで、同様に堤体掘削と重機によるRCD打設に従事させていただきました。 電力ダムも前回に続き2ヶ所目でしたので、 得意先も元請ゼネコンの方もほとんど顔見知りの方が多く、工事もスムーズに進んでいきましたが、やはり前回同様急峻な山肌にはいろいろと苦労させられました。ここでも施工時に台風による出水に見舞われましたが、予報データの入手を早めにいただき大事には及びませんでした。
またこのダムでも近隣の方々と発注者・元請・協力業者間の親睦会をよく行ったのを憶えています。このようなことを書くと、毎回宴会ばかりして順調に施工が出来たのかと疑問に思われるかも知れませんが、このコミュニケーションが現場や近隣の方との潤滑剤になり、我々作業に携わるみんなの活動力になる要素だと思います。

7)森吉山ダム(秋田県)

森吉山ダムは秋田県北秋田市根森田の米代川水系小俣川の中流部に建設された中央コア型の多目的ロックフィルダムです。

写真-11森吉山ダム全景(ダム便覧より)

ダム諸元は、提高89.9m 提頂長786.0m 堤体積5,850千m3です。 河川の下流域は過去に大規模な洪水の被害に何度も見舞われていました。このような経緯から下流域の洪水調整や灌漑用水の供給・水道用水の供給また発電(11.2千kw)などを目的としたダムです。久し振りのロックフィルダムで当社の得意とする大型重機土工の現場だったので気を引き締めて掛かったのを記憶しています。

写真-12森吉山ダム 大型重機土工(ダム便覧より)

ここも秋田県の山間部ですので、冬季は重機作業が出来ず、また土質もあまり良質では無かった為に、盛立材のコアを確保するのにストックヤードでの選別確保には気を使いました。このダムは原石山と本体工事を大きく2分割発注されて、原石は他工区の持ち分でしたのでコア材の品質管理に大きく力を注いだことを思い出します。 このダム現場までは、協力業者の現場代理人としてやらせていただきました。その後は、秋田県の砂子沢ダム(重力式コンクリートダム)に3年間、北海道の厚幌ダム(台形型CSGダム)では1年11ヶ月を当社社員の指導をしながらダム工事に携わらせていただきました。

おわりに

この文章を書きながら、入社以来海外工事に従事した7年間を除き私の現場生活の大半がダム工事であり、それが30年以上続いていたことに今更ながら驚いております。その間にいろいろとご指導していただいた発注者や元請企業の皆様、また一緒に汗を流し働いたオペレーターや作業員の方々、お酒を飲み交わしながら談義を交わした地元の方々に感謝し、これからも災害に強いダムを目指し、ダム屋として飛び回っていきたいと思っている次第です。

月間ダムより転記